悪を退治するには、世界を平和にしてはいけない。
なぜ世の中には悪人がいるのでしょうか?
人を傷つける人がいるのでしょうか?
あるとき、そんなことを考えていたら、悪魔が真逆のことを言いました。
「なんで正義をかざして善いことしようとする奴がいるんだろうな、どえらい迷惑だよね、ホント、、、」
例のごとくまた変なことを言っていたので、私はすかさず、
「あなたみたいな悪魔がいるから、そいつらを正すために倒すために、警察が取り締まったり、刑務所に入れたりしなければならないんだよ。あんたたち悪のせいだからね!」
と強めに言うと、またもや悪魔はワッハッハと笑いながら、
「面白いこと言うなおまえは、そうだよ、そういう世の中を正そうと思った“間違った考え”のやつらがいるから、俺らがしょうがなく“わざわざ”悪いことをしてあげているんだよな」
と言います。
「いやいや、、」
とまた同じことを言いそうになって、
「そんなやり取りしていても水掛け論ですよ、話は終わんないですよ」
と言うと、悪魔は、
「そうだな、さすがに俺も“水”は好きじゃない、聖水とかたまにかけられるからな。
嫌いなんだよ、意味もなく悪魔だからって差別して聖水かけてくるやつ」
というおかしなことを言いだしたので
無視して魔女の料理作りにとりかかろうとしたときに、ふとあることに気付きました。
「たしかに悪魔の言うことも確かに一理あるのかもしれない。」
私は振り返って悪魔に尋ねました。
「ねえ、悪魔さん。ちょっとお聞きしたいのですが、
今まで、正義というのは、悪が存在するから正義の味方がいるのだとずっと思っていましたが、実は反対だったのですか?」
と、、、
すると、悪魔は
「良く気付いたな、実はことの発端はだな、世界が生まれ人間ができ、
集団で生活するようになった時の話だが、、、
ある村があって、そこには悪なんてものは存在しなかった。
差別もなく穏やかに暮らしていたんだよ。
しかし、ある時“正義”の名のもとに、自分の主張が正しいと唱える者が出てきた。
そして、その主張をあたかも当たり前の常識で正当かのように皆を洗脳し始めたのだ。」
私「それ洗脳って、、、なんかネガティブですよね、、、」
悪魔「そうだ、、、そのように正しいと主張している奴が“自分の都合の良い世界を作る為に”周りを洗脳し始めたんだ。
するとどうなる?そんな人を操ろうとするなんて反対だというやつも出てくるだろ?」
私「そうですね」
悪魔「しかし、もうすでに洗脳されている人はたくさんいるから、あとから反対を唱えたやつらはどうなったと思う?」
私「みんなに受け入れられなかった???」
悪魔「そのとおり、その反対派はそのときに“悪”という名前を付けられ、その村から追放されたのだ」
私「なんだか、それって変ですよね。そもそも自由に生きていた人を洗脳し始めた人の方が悪そうなのに、それを止めようとした人が追放されるなんて。」
悪魔「そうなんだよ。つまり、なぜ悪が生まれるのかというと、人が自分は正しいことをしていると信じたいために、自分の正統性を主張するために正義を振りかざすんだ。
そうすると、必然的にその意見に反対派が出てくる。
当たり前だよな、人間は十人十色なんだから、違って当たり前だ。
だけど、最初に主張したものや権力のあるものが結局は“正義”という名を振りかざすだけなんだよ。わかるか?」
私「たしかにそうですね。戦争だって、たぶんそれぞれ国の主張があったはずなのに、
負けた国は勝った国の言いなりにならないといけないですよね。しかも、負けた国は悪い国として世界に非難される。」
悪魔「だよな、だから人間はおろかなのがよくわかると思うが、つまりは、この世の中は、『勝ったもの』が正義なんだよ。
世の中は平等だと言うやつもいるが、もうすでにこの世にはそんなものはあり得ない」
私「そうなんですね、、、でもじゃあどうしようもないじゃないですか、、、」
私「でもな、正義があるから悪が生まれるということは、正義がなければ悪も生まれないということだ。つまり、みんなが自分は正しいと思うことが無ければ、正しいということなんてなくなる、常識もない。だから間違っているというのもないし、悪いもない、非常識というのもない。正も悪もない、まさにカオスだ。でもそれが本来の姿なんだよ。」
私「、、、でも、そんなカオスって、ちょっと怖いですよね。法律もないですよね」
私「だよな、おまえも含め、全員がそのように思うから、正義は無くならずに悪もなくならないんだよ。つまり悪とは正義の心が生み出しているものだ。」
私「そうか、そう考えると、なんだか悪がかわいそうにも思えてきたな、、、
ホントは何もない平和を望んでいただけなのに、悪にならざるを得なくなった。
なぜなら正義という“悪”が出てきたから。なんだか複雑な心境ですね。」
悪魔「そうやって世界は回っているんだよ。そして、今、正義と悪があることが常識となっている以上、変えることはそうそう無理だろう。人類が滅亡しない限りな。
ただ、自然界でもこれは当たり前のように起こっていることでもある。
弱肉強食と呼ばれるように、強いものが弱いものを食べ、これを循環させている。
しかし、人間と決定的に違うことは、『正義と悪』という概念がないということだ。
動物も含め植物も、それを自然の摂理として受け入れている。だから、平等ともいえるのだよ。
しかし、人間社会は平等とは程遠い。へたに知恵がついてしまっているだけに、たちがわるい。正しいと思ってやっていることが、全てを破壊に導こうとしている。
こんな矛盾した、バカらしい世界にお前は生きているんだぞ、それを理解しているか?」
私「たしかにな、、、でも、私ひとりがどうこうしようが意味がないですよね」
悪魔「そうだよな、一人だとそう思うよな。だから世界は変えられないんだよ。特に今のお前は絶対無理。でもな、世界を変えるやつは自分一人だけの時から、うじうじして『ぼく一人が、、、』なんて言っていないんだよ、一人でもどうにかなると言って立ち上がった奴が、世界を変えていくんだよな。
、、、といってもあんまりかわらないけどな。本質的には、、、」
という絶望的な言葉を残して去っていった悪魔だが、
その後ろ姿は、なぜか少し寂しそうに見えた。
ふと、、、
「でも、なぜあいつは悪魔なんだろう?」という考えが頭の中をよぎる、、、
もしかして、世の中を真剣に平等にしたいと立ち上がった
勇気ある一人が、あの“悪魔”だったのかもしれない、、、
そして、巨大な“正義の組織に”負けて、悪魔になってしまったのではないか、、、
「世界を平和にしてはいけない。それだけ悪も必要になる。」
そんな悪魔の言葉を思い出し、
だったらもしあの悪魔が“正義に勝っていたら”目の前のあいつは“神様”になっていたのか?
そんな不思議なことを考えると夜も眠れなくなってしまうのでした。